On THE PIXEL, Under THE PIXEL

5. デジタルイメージと言葉の威力〜リンダの言い分〜

『Cape-X』 Nov. 1995 掲載

中村理恵子

 

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とーとー流行のインターネットにはまってしまった。ネットスケープというインターネットを巡るブラウザソフトは、なかなかよくできた‘空飛ぶ絨毯’というところか。このソフトの右肩にあるNのマークに降る無数の流れ星を眺めながら次々にインターネットに点在する未知の扉を押し開いていく。ネットワーク特有のねじれた時間と距離の荒波をかきわけて、まずはいくつかのArtの拠点を探検してみた。

リンダは、『オンラインギャラリー/THROUGH LAVER'S EYES by Linda Strauss』を開催している。ここでは、アナログ素材とデジタル技術をうまいことミックスして、彼女のしっとりした眼差しを思わせる美しくて密度の濃い作品群を楽しむことができる。カタログページには、切手サイズの作品の豆絵が貼り付けられていて、美味しそうなフランス料理のメニューをみているような気分になる。

―Linda's Available Items to View―こんな言葉に誘われてつい実際の作品をダウンロードしてみたくなる。

ネットワークってなかなか心にくいメディアだと思う。何処かに出向くことなくお目当ての作品を自分のモニターに引き寄せることができる。小さい見本だけで我慢することはない。「今ほしい!今みたい!」という衝動が冷めないうちに作品を鑑賞することができるのだ。

メニューには、リンダのプロフィールもある。これをクリックしてみるとアーティストの肖像- Linda Strauss -が現れ、彼女が、ニューヨークにあるシラキュース大学で学んだことがわかる。ブラウンの髪をマッシュルームカットした30代前半のどちらかといえば控えめな印象の女性だ。プロフィールには、どんな勉強をしてきたか、いかに多様な技法を駆使したか、さらに作品にこめた祈りに近い願いや思いが生真面目に記されている。そして、当然だけど、このオンラインギャラリーの最大のメリットである鑑賞者が自宅まで引き込んでしまえる作品データの扱いについて言及したくだりにぶつかる。

彼女は、「個人使用の範囲でダウンロードして楽しむ以外は断じて許さない。」とキッパリ言う。その表現も‘expressly forbidden’とあって、わたしにはピンとこないけど、英語圏で教育を受けた人間がみると「めったにここまで言わないよ。ギョっとするくらい強い禁止の表現だね。」ということらしい。

デジタル作品ってオリジナルをすごく簡単に完ぺきにコピーできちゃうし、電子ネットワークの中をすいすい泳いでいってしまう。

現時点でのオンラインギャラリーは、受け手のモラルと送り手のはっきりした意志表示の疏通を基本に、緩やかな紳士協定みたいなものによりかかっている。だけど、破竹の勢いで増殖するインターネットに、リンダは何か漠然とした不安を感じたのか、あるいはすでにいくつかの不快な経験をしたのかもしれない。リンダがデジタルイメージで発表しつづけるかぎり、当分、威力ある「言い分」の創造も怠るわけにはいかないのだ。

(Nov.1995)


 

 

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