不定期にときどき  Yoshiko Sekiguchi 居心地のよい三つのホテル



私の見る夢のパターンの中で、しばしば「ホテル」が登場する。どれも 大変に居心地がよく、そこから出たくない、という気分が私の夢を支配す る。

(夢) ひとつは、昨日の夢に出てきた穂高だか軽井沢だかの高原の観光道路を上 りきったところにあるホテルで、隣はなぜか遊園地である。ホテルは低層 でスイスシャレー風の木造なのだが、とても横長でいつも廊下の終わりに 何があるのかを確認することができない。もしかしたら、ホテル全体が輪 の構造になっているのかもしれない。いたるところに観葉植物が配置され ており、中でも2 階にあるカフェテリアは、テラスも、店内もゼラニウム に囲まれている。照明は暗く、ひっそりとレストランやバーがあるあたり だけ明かりがもれている。ホールにもレストランにもたくさんの客がいる が、すべてが静かで、植物の香りに満ちている。エレベータも木造で、そ れにのってホテル内のあちこちを回ってみたくなるが、常にチェックアウ ト時刻ぎりぎりでその余裕がない。
もうひとつは、南の島の夢をみるときに出てくる船着き場の前のホテルだ。 平らな島の、砂でざらざらした道をあるいてくると、そのホテルがある。 造りは観光地の民芸品屋さんにありがちな和風の木造平屋建てで、入り口 の横に木彫りの調度品を売る店があり、ロビーはなにかの草葺きの屋根に おおわれているけれども、全体が開放的になっている。フロントの奥には、 座面のところがルビー色のビロードのような布で織られている古いスツー ルがある。その島では日陰はそのホテルのロビーしかないことになってい る。
考えてみると、私はこの入り口の風景しかみたことがないので、そこがホ テルなのかたんなる民芸品店なのかわからないはずなのだけれども、とに かくそこはとても居心地のよいホテルだということになっている。そうい えば、フロントに人がいるところも、ほかに客がいるところもみたことは ない。
みっつめは、東京都心を見おろす斜面に建てられたシティホテルで、テラ ス式のつくりになっている。ロビーの上の階のテラスはとびきり大きな温 水プールになっている。その温水プールはとてつもなく大きい開放的なつ くりで屋根もなく、東京の夜景が水面に映り込んでいる。また、プールの 際まで泳いでいくと、眼下にも夜景が見える。
プールの中をゆっくりと泳ぎ回ると、せまいトンネルで仕切られた場所が あり、そこから潜ってトンネルの反対側にいくと、そこは温泉になってい る。温泉につかって、夜景を見に戻りたいのだが、どうやっても別の場所 (その都度ちがう)に出てしまって、さっきの気持ちのよいプールに戻る ことができない。ここも、本当はホテルじゃなくてたんなる温水プールな のかもしれないが、夢の中ではホテルの1 フロアだということになってい る。


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