On THE PIXEL, Under THE PIXEL

1. 「R」の話 その1

『Cape-X』 Jul. 1995 掲載

中村理恵子

 

about this series


Riekoという名前のせいか、わたしはRという文字のついたもろもろを、ついつい磁石が砂鉄をくっつけるみたいに引き寄せてしまう。わたしにまつわるR、その1。オマケのRの話。

ニューヨーク、といったって、マンハッタンはそのほんの一部。ジョージワシントンブリッジを渡り、ぽつんぽつんと平屋が点在する退屈な風景を北上していっても、まだまだニューヨーク州から抜けられない。

そんな退屈なニューヨークの辺境で、2週間の休暇を過ごしたある冬、わたしは町に一件だけの骨董屋に毎日のように通った。

店主は、定年退職した小学校の校長さん。昔はすごく魅力的な碧眼、金髪だったんだと思う。店内ところ狭しと積み上げられたガラクタは、すべてうっすらほこりのベールを被ってる。さすがは骨董屋。誰かの手がソっと払いのけるほこりの量まで考えて、その真価に気づいてくれる日をのんびり待っている。

戸口近くの桶をひょいとのぞき込むと、どこかの牧場の馬小屋かアーケードでも解体したんだろうか。木でつくられたアルファベット文字が満杯に放りこまれている。艶を失った銀のペンキに覆われた文字が、ごちゃごちゃに絡み合ってる。あったあった「R」の文字。
「これ、いくら?」
店主が、きゃしゃな老眼鏡の奥からそれを見つめて何かいった、
「******、、、***、、、、、、」
(わっかんないよー、そんなにうまく英語しゃべっちゃ)。言いおわると、彼はさっさと膝の上の書物に目を落とす。商売にぜんぜん興味ないの? しかたがない、もう一度。
「これ、なんぼ?」
彼は、とうとう立ち上がった。そして、このムチは7ドル、このランプは13ドル50セント、この食器は1セットで112ドル………
「あ、でもね。わたしは、このRの字が欲しいんですけど」
しかし、彼は相変わらず別のものを取り上げて値段を示す。そして「R」の文字を最後に指差す。だからわたしは,,,,。おっ!そうか!!。
Rには値段がない。Rは売り物じゃない。タダのオマケだったのだ。買い物した人、お一人一点限りかどうかは知らないけど、なにせ山盛りいっぱいのアルファベットは商品じゃなくて、店主の感謝の気持ちというわけ。お金じゃ買えない「R」の文字。
 こうなると人間無性に欲しくなる。うすぎたないR形の木片にこめられた店主の感謝というやつを抱きかかえて、その特典を手に入れるために、買い物に挑むんです。

しかしまてよ。この商品とサービスの逆転関係、過去に一度、強烈に囚われたことあるぞ。
「一粒100m!グリコのオマケ」あの魔力だ。

(Jul.1995)


 

 

目次  ―  次>

top
link to