Second Session

春の巻
Spring Scroll




「春の巻」は、中村理恵子・安斎利洋による2回目の連画セッションである。1992年の年末から1994年の1月まで、およそ1年間をかけてじっくり編み上げられた。「春の巻」は、変化の少なかった第1セッションとはうってかわって、否定を含めたダイナミックな展開を暗黙のうちに意図しながら開始された。


 

■ SS01発画 発芽す はじめの一歩
Image Emerge. First Step
安斎利洋
Toshihiro Anzai 1992/12/08

はじめの一歩は、文字どおり作者自身の足を撮影し、画像処理した。

 

■ SS02賀正!マルクスお食べ
Happy New Year. Eat This Marx!
中村理恵子
Rieko Nakamura 1993/01/01

天界から落ちそうになった天使の足。作品をプリントし、その紙に直接インクで加筆し、再びスキャナでとるというプロセスを用いている。

 

■ SS03全自動洗濯機と熟練について
On Fully Automatic Washing Machine and la Dexterite
安斎利洋
Toshihiro Anzai 1993/01/29

美しいブルーを、メッシュのスプライン変形で渦潮にし、全自動洗濯機の動作をつい見入い ってしまう熟練できない人間を配した。

 

■ SS04生きるって楽しいデ−タ
Life is Fun Data
中村理恵子
Rieko Nakamura 1993/02/01

洗濯機の前の女を芝生に寝かせ、水流にはプールの枠がはめられる。ちりばめられた数字の意味は謎。

 

■ SS05ピンクのテープ
Pink Tape
安斎利洋
Toshihiro Anzai 1993/02/05

数字に想像力をかきたてられて、さらに意味不明の記号を追加する。SS04に撒かれた数が、スポーツクラブで測定した中村の血圧や体重などであることは後日のEメールで知る。美しいブルーを、メッシュのスプライン変形で渦潮にし、全自動洗濯機の動作をつい見入い ってしまう熟練できない人間を配した。

 

■ SS06ミュージアム試案,私案、思案
Museum: Experimentation, Intellectualization, Cogitation
中村理恵子
Rieko Nakamura 1993/02/10

CD−ROMのメニュー画面をまねている。はじめの3つは、5の画像を異なるカラーコレクションで変換したもの。最後のひとつは作者自身の顔。

 

■ SS07めくるめく不整脈
Dazzling Irregular Pulses
安斎利洋
Toshihiro Anzai 1993/02/13

「どれが好き?」というSS06の問いに答えて、手の形を切り出す。ピンクのテープが、思い出したように再出現している。

 

■ SS08隠し玉のスリービューティー
Three Beauties, an Ace Up My Sleeve
中村理恵子
Rieko Nakamura 1993/04/21

手の3角形から3美神。意味的に連結したはじめての展開。中村は、引用の法則性を破壊しようとする。

 

■ SS09画しきれない三美神
Three Beautiful Deities Unveiled
安斎利洋
Toshihiro Anzai 1993/04/22

灰色の3美神に色彩を与えた。8の人物の周りの軽快な線は、注意深く残されている。

 ■ SS10フローラ現る 一人増えた
Three Beauties, an Ace Up My Sleeve
中村理恵子
Rieko Nakamura 1993/04/25

フローラが登場して、あきらかにボッティチェリの「春」を意識しているのがわかる。

 ■ SS11ヴィーナス誕生 父母ともに不明
The Birth of Venus. Of Unknown Parentage
安斎利洋
Toshihiro Anzai 1993/04/27

SS10の身をよせあった3美神のお腹のあたりに美しい形を発見し、そこを引き延ばして形を整えた。放蕩な親から生まれたヴィーナス。

 

■ SS12画像がはみ出しています
The Image is Too Large for Its Frame
中村理恵子
Rieko Nakamura 1993/07/06

明るい光の中に飛び散ったヴィーナス。多重コピーを用いている。「画像がはみ出しています」というタイトルは、ペイントソフトの発するメッセージからの引用。

 

■ SS13なつかしい目覚め
Nostalgic Awakening
安斎利洋
Toshihiro Anzai 1993/11/23

放逸な光線が、気怠い朝の光に変わる。人影に顔が与えられる。

 

■ SS14 PC > PC

中村理恵子
Rieko Nakamura 1993/11/26

もの思いに沈みがちな女は、草原のなかに連れ出される。データを転送する際、どこのホストも介さずダイレクト接続(PC−電話回線−PC)を試みたのが、タイトルの由来。

 

■ SS15黄色い地平線がみえた
I Saw the Yellow Horizon
安斎利洋
Toshihiro Anzai 1993/11/26

美しい黄色い線を地平線にみたて、それを眺める女の顔を描いた。女の目の中に、SS14の女の顔がある。

 

■ SS16金魚のお家
The House of the Goldfish
中村理恵子
Rieko Nakamura 1993/11/29

顔の中に金魚を飼育しはじめる。顔全体が、拡大された片方の目に覆われ、それが再び剥がされ、という複雑な制作過程が見てとれる。もの思いに沈みがちな女は、草原のなかに連れ出される。データを転送する際、どこのホストも介さずダイレクト接続(PC−電話回線−PC)を試みたのが、タイトルの由来。

 

■ SS17海につづく道
A Path Leading to the Sea
安斎利洋
Toshihiro Anzai 1993/12/05

星の形から星座を連想するように、形が何か別のものに見えてくるのが、この頃流行のメソッド。金魚鉢のなかに、海辺につづく道のある風景を発見する。

 

■ SS18月世界のKING&QUEEN
King and Queen of the Moon
中村理恵子
Rieko Nakamura 1994/01/02

SS17の中から発見された2匹のウサギの形が、中央で向かい合っている。日本の古い言い伝えに従えば、ウサギは月世界に棲む。月へ思いを馳せて、「春の巻」は閉じる。

 

Toshihiro ANZAI and Rieko NAKAMURA